わらいきオリジナル台本
「オオカミのひとりごと ~鳴き声は・・・泣き声なんだ~」 作:クリム
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<キャスト>
オオカミ
語り
※一人でもOK
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ある日のこと。
びしょ濡れになった一匹のオオカミが森の中をとぼとぼと歩いていました。
オオカミは悔しそうにつぶやきました。
「オレ様としたことが・・・。
7匹の子ヤギどもの最後の一匹を見逃してしまうとは。
一人残らず食っちまっていたら、こんな無様なことにはならなかったのに。
それにしてもあのヤギの母親ときたら。
随分と手荒なことをしてくれたもんだ。
オレ様の腹を切り裂いて石を詰め込むとは・・・。
もう少しで・・・、本当にもう少しでオレ様は池の中で溺れ死ぬところだった。
いやぁ~、助かった~、ヤギの母親の縫い方が雑だったからなぁ~、
水の中で糸がプチプチと切れてよぉ~、石は腹のなかから出て行っちまって・・・。
おおー、神よ~。神様よ。
オレ様を助けてくださってありがとう。お~、神よ。」
オオカミはぶつぶつとつぶやき、そしてよろめきながら森の奥へと歩いて行きました。
「ホーッ、ホーッ。オオカミがオオ~カミよ~、か。面白いのぉ。しかしあのオオカミ・・・フラフラではないか。
少し休んでいけばよいものを・・・。何をあんなに急いでおるのじゃ?」
年老いた一羽のフクロウが木の上から心配そうにオオカミを見送りました。
「ちっ、まだ腹がチクチクと痛みやがるぜ。でも少しでも早く帰らないとな。
可愛い奥さんと、可愛い子供達がオレのことを待っているんだ。きっと心配しているだろうなぁ。」
途中、シカの群れと出会いました。
「オオカミだぁ~、悪い悪いオオカミだぁ~、逃げろ~」
シカたちは一目散に逃げ出しました。
まだお腹がチクチクと痛むオオカミは、獲物を追いかける元気がありません。
よろよろと森の中を歩きました。森で出会う動物たちは、みな、オオカミの姿を見かけると逃げ出しました。
「凶暴なオオカミが来たわ、逃げるのよ~」
オオカミは心の中でチッと舌打ちをして歩き続けました。お腹はますます痛くなりました。
「いてて・・・、腹がチクチクするぜ。
いや、本当に痛むのは腹じゃない・・・、
オレ様の・・・、オレ様の・・・・心が・・・・チクチクと傷んでいるんだ。
なんだか・・・悲しくなってきたぜ。
なぜ俺たちばかりがいつも悪者扱いされるんだ?
お前らを食べるのはオオカミだけじゃないだろう?
クマやタカや毒ヘビ、凶暴なやつは他にもいるじゃないか。
なんでいつもオオカミだけが悪者なんだよ。
なんでだよ。
それに、それによ、オレ様達オオカミだってよ、食べていかなきゃいけないんだぞ。
生きていかなきゃいけないんだ。」
オオカミは家族が待つ森の奥の岩場の方へと歩みました。
「ワオーン、ワオーン」
遠くからオオカミの家族の鳴き声が聞こえてきました。
「ワオーン、ワオーン」
とても心配そうな鳴き声です。
「ワ、ワオーン」
オオカミは痛むお腹を押さえながら、遠くにいる家族に応える様に力を振り絞って返事をしました。
「待っていろよ~みんなぁ。父ちゃんは今みんなの所へ向かっているぞ。
あ~、だけどなぁ、お土産はないんだ・・・、ごめんな。
腹が治って完全復活したら、今度こそヤギどもを連れて帰るから、な。」
そして静かにもう一度、
「ワオーン」と鳴きました。
オオカミのその鳴き声は震えていました。
「ワオーン、ワオーン」
オオカミの声は小さくなっていきました。
いつのまにかオオカミは、ポロポロと涙をこぼして泣いていました。
「なんだろな、悲しいなぁ。俺たちオオカミは一生懸命に生きているだけなのによ。」
遠くからオオカミの家族の心配そうな声が聞こえてきました。
「ワオーンワオーン。あなた、今どこにいるの?」
オオカミの奥さんの声でした。
「ワオーン、ワオーン。お父さん、今どこ?僕達、お腹がすいちゃったぁ」
オオカミの子供たちの声です。
「みんな・・・、ワオー・・・」
お父さんオオカミの鳴き声は途中で途切れてしまいました。
まん丸のお月様が明るく照らす森の中で、
お父さんオオカミはお腹を押さえたまま力尽きて死んでしまいました。
「ワオーン、ワオーン」
お父さんを待つ子供オオカミたちの声が、静かな森の中を悲しそうに、木霊しました。
終わり