【世話好きな友達】2:1台本(約15分)  作:原伊達


<キャスト>
ミサキ♀

トワ ♂

セツナ♀

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ミサキ……18歳、お嬢様。気が強く社交的。

     大学進学にあたり出家することを決意する。

 

トワ………26歳、執事。

     幼いころからミサキのお世話係を務め、

     ミサキが11歳のころ正式に執事として雇用される。

     不器用な性格で、感情を説明することが出来ない。

 

セツナ……22歳、侍女。

     ミサキが高校に入った時にミサキに雇われた。

     ミサキが出家するにあたり、雇用主はミサキの父親に

     譲渡された。

     トワとは正反対で、明るく積極的だが誰に対しても

     敬語を使う。

     いたずらっこな気質がある。

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【ミサキの部屋】

トワ 「お嬢様。お嬢様。

    そろそろお目覚めになったほうがよろしいかと」

 

ミサキ「ん~分かっているわ、そう急かさないで」

 

トワ 「今日はとてもいい天気です。

    今朝は何をお飲みになられますか?」

 

ミサキ「そうね~、じゃあ、品種は問わないから紅茶を」

 

トワ 「かしこまりました」

 

セツナ「おはようございます、お嬢様」

 

ミサキ「おはよう、セツナ。今日も早いわね」


セツナ「侍女ですから、当然です」

 

ミサキ「セツナは真面目ね。

    私が居なくなったら、どうするつもり?ここに残るの?」

 

セツナ「そうですね。

    お嬢様がお一人で進学すると仰らなければ、

    付いていくつもりでいましたが。

    まあ、残るつもりです」

 

ミサキ「それじゃあ、お父様の事、よろしく頼むわね」

 

セツナ「本当に、もういなくなってしまわれるのですね」

 

ミサキ「まだ一週間あるわよ」

 

セツナ「それこそ、私には文字通りセツナでございます」

 

ミサキ「あら、上手。ふふ」

 

セツナ「では、お嬢様。ラウンジでお待ちしておりますね」

 

ミサキ「ええ、ありがとう」

 

【ラウンジ】

トワ 「お待たせいたしました」

 

ミサキ「ありがとう……ん、美味しい。ニルギリ?」

 

トワ 「さようでございます。どうか、なされましたか?」

 

ミサキ「どうかって、今の顔は何?もしかして調子悪いの?」

 

トワ 「いえ、そんな事はございませんよ」

 

ミサキ「嘘は良くないわトワ。主に嘘をつくなんて執事失格よ?」

 

トワ 「それも、いいかもしれませんね」

 

ミサキ「なにそれ。ど、どうしたのよトワ。貴方らしくないじゃない」

 

トワ 「お嬢様」

 

ミサキ「いや、やめて!

    折角気持ちよく目が覚めたっていうのに、

    悪い夢はやめて頂戴!」

 

トワ 「お嬢様」

 

●ミサキがカップを割る

 

ミサキ「ッ!」

 

トワ 「それを綺麗にするまで、私に話しかけないで」

 

セツナ「お嬢様、朝食の準備ができ」

 

ミサキ「いらない、先に行くわ」

 

セツナ「お嬢様!?あ、ちょっと待ってください!お嬢様!

    お嬢様!待ってください!

    はあっはあっ追いついた。ど、どうかなされたんですか?」

 

ミサキ「……わからないわ」

 

セツナ「わからない?」

 

ミサキ「わからないのよ。トワが、何考えてるのかが」

 

セツナ「トワさんが?」

 

ミサキ「ねえ、セツナ、トワから何か聞いていない? 

    私が嫌になったとか、愛想尽きたとか」

 

セツナ「トワさんが、なにかおっしゃったんですか?」

 

ミサキ「今まで見たことが無い表情で、

    執事をやめるのもいいかもしれないって。

    私、確かにいい子じゃなかったかもしれない。

    でも、そんな!10年以上も一緒にいたのに。」

 

セツナ「ふふ、お嬢様って意外と鈍感なのですね」

 

ミサキ「やっぱりあなた何か知ってるの?」

 

セツナ「そうですねえ。

    では、お嬢様の出発の日に総てを話すよう私が手配します。

    ですからそれまでトワさんには

    しばらく休暇を取ってもらいましょう」

 

ミサキ「そんなことしたら私の世話は一体だれがするのよ?」

 

セツナ「あら?お嬢様はこれから一人でお暮しになられるのですよ?

    そんな調子で大丈夫ですか?」

 

ミサキ「なによ~!そこまで言うならやってあげるわ!」

 

セツナ「うふ、見守ってますからね」

 

ミサキ「大丈夫よ!

    その気になれば私にだっていろんなことできるんだから!」

 

セツナ「ほんとですか?」

 

ミサキ「信じられないっていうの?」

 

セツナ「どうですかねえーふふふ」


 

【ミサキの部屋】

セツナ「お嬢様、これで荷物は全部ですか?」

 

ミサキ「ええ、ご苦労様」

 

セツナ「それより、いいんですか? 旦那様にご挨拶しなくても」

 

ミサキ「今生の別れじゃあるまいし。

    昨日の夜に少し話したから、あの人はあれで十分だと思うわ。

    さて、それじゃあね」

 

セツナ「ええ、トワさんによろしくお伝えください」

 

ミサキ「うまく話せるといいのだけれど」

 

セツナ「大丈夫ですよ。なんて言ったってお嬢様なんですから」

 

ミサキ「ありがとう。また会いましょう。セツナ、世話になったわね」

 

セツナ「いえ、私は侍女ですから、当然です。なんて。

    ふふ、行ってらっしゃいませ、お嬢様」

 

ミサキ「行ってくるわ。」

 

【場転】

ミサキ「いつも通っていたはずなのに、この18年間、

    じっくり街並みを見て回ったことってなかったかも。

    こんなに素敵な道だったのね。

    見えてるようで、何もじっくり見られてなかった。

    そういうことなのかも、ね。

    あ、シャボン玉!

    確かトワに教わった歌にそんなのがあったっけ。

 

    しゃーぼんだーまとーんーだー 

    やーねーまーでーとーんーだー 

    やーねーまーでーとーんーでー 

    こーわーれーてーきーえーたー

 

    ……消えないでよね、トワ」

 

トワ 「消えませんよ。お嬢様がいる限り」

 

ミサキ「ト、トワ!?」

 

トワ 「私を通り過ぎたものですから、

    思わず後ろをついていってしまいました。

    今まで、いつもあなたの後ろ姿を見てきたものですから」

 

ミサキ「そうね、いつだってあなたは私についてきてくれた。

    ねえ、それよりその恰好、私があげたものよね?」

 

トワ 「はい、数年前の物でしたので、着られるか不安だったのですが、

    なんとか着られました」

 

ミサキ「似合っているわ、とても。」

 

トワ 「恐悦至極に存じます。

    お嬢様、今日は旅立ちの日でございますね」

 

ミサキ「ええ。私は聞く準備を終えてきたわ。いつでも始めなさい」

 

トワ 「さようでございますか。少し歩きましょう。お手を、どうぞ。

    ここ数年は、こうして散歩することも無くなりましたね」

 

ミサキ「そうね、なんだかんだで忙しかったものね」

 

トワ 「セツナから報告は受けています。

    一週間もよくお一人でお過ごしになりましたね」

 

ミサキ「馬鹿にしないでよ。私にできないことないのよ」

 

トワ 「洗濯機を泡だらけにしたり」

 

ミサキ「うっ」

 

トワ 「卵を10個使い物にならなくしたり」

 

ミサキ「うう……」

 

トワ 「ドレスの着方が分からなかったり」

 

ミサキ「もういいでしょう!初めてだもの!

    当然じゃない、誰にだって失敗はあるものよ」

 

トワ 「ええ、そうでございますね。それ以降の数日間は、

    見事にやってのけたと、セツナから聞いております」

 

ミサキ「綺麗ね、桜。

    こんなにじっくり見たことなんてなかったわ。

    こんなにも色鮮やかで素敵な気分にさせてくれる

    ものだったのね。」

 

トワ 「世界には、お嬢様の知らない綺麗なものが

    まだまだたくさんございます。

    そのことをどうかお忘れにならず、

    是非それらを求めてくださいませ」

 

ミサキ「綺麗なものは己を磨く!だったかしら」

 

トワ 「さようでございます」

 

ミサキ「物好きだとは思わないの?」

 

トワ 「何がでございましょう?」

 

ミサキ「あなたよ、トワ。

    今まで18年も私に毎日お茶を淹れて送り迎えして。

    本当に、物好きとしか言いようがないわ」

 

トワ 「私はそうは思いません。

    お嬢様は、とても優雅で高尚で、

    私にはもったいないほど立派な主さまでございました。

    このトワ、神に誓って嘘はつきません」

 

ミサキ「ねえ、トワ、そろそろ、聞かせてくれるかしら。

    どうしてやめてもいいなんて言ったの?」

 

トワ 「私は、お嬢様に18年間お仕えしてきて、

    一つだけ気づいたことがあります。

    それは、お嬢様以外に仕えることが想像できない自分でした」

 

ミサキ「私、意外に?」

 

トワ 「私は旦那様に雇われた身。

    お嬢様に雇われたセツナと違い、屋敷を出てお嬢様のお世話を

    することはできません。

    お嬢様が家をお出になられる以上、私にはお嬢様に仕える手段は

    無いわけです」

 

ミサキ「それが真相?」

 

トワ 「はい、これがあの言葉の真意でございます」

 

ミサキ「そう。ありがとう、話してくれて!」

 

トワ 「とんでもございません」

 

ミサキ「それでどうするの」

 

トワ 「それが・・・、

    実は昨晩、旦那様からお暇をいただいてしまいました」

 

ミサキ「ええええええ!!!?? クビになったの!?」

 

トワ 「お恥ずかしい限りでございます」

 

ミサキ「あ、セツナの言っていたトワさんによろしくって!?

    セツナったら知ってたんだわ!うふっ。

    えっと、それじゃあ、一緒に・・・来る?」

 

トワ 「それはお嬢様の執事としてでしょうか」

 

ミサキ「えっと、友達!?そう、友達よ!

    少し世話焼きな、私の友達のトワ。

    あなたはこれから私の友達、良いわね!」

 

トワ 「かしこまりました。

    貴方の友達、不肖トワ、いつまでもご一緒させてください。

    文字通り永遠に」

 

ミサキ「あ、それ!」

 

トワ 「はい、セツナの受け売りでございます」

 

ミサキ「ふふ、あなたが冗談を言うなんて。

    それから、トワ。友達なんだからお嬢様はなしよ。

    友達は名前で呼び合うものなんだから。」

 

トワ 「これからもよろしくおねがいしま、あ、

    よろしく。ミサキさん」

 

ミサキ「合格!」